幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
遠巻きに眺めても、直接話しかけられないのがもどかしくなるばかりだ。お昼過ぎには山下さんと涼介が二人で雑談していた。


「山下、長野土産わざわざありがとう。蕎麦旨かった」


「涼介に買った覚えないけど。涼介は俺にお土産買ってきてくれないじゃん」


「今度台湾行くからその時は礼を兼ねて買ってくるよ。何が良い?」


「へぇ、それいつ?いない間の事を心配した方が良いかも」


「……やっぱ買ってきてやらない」


良い大人同士なのに、お土産を買ってくれないとかあげないだとか、変な二人。



「環くんも台湾土産欲しいよな?やっぱり定番のパイナップルケーキ?」


「俺は……ええと、倉庫行ってきまーす!」


涼介と会話しないルールを守るため、倉庫まで走って一人きりで深くため息をついた。


本当はもっと涼介に素直になりたい。最近は私が意識しすぎてるせいか、上手くできないことばかりだ。会社だけじゃなくて、家の中でも。


あのノートに書かれていたことを聞いてみたいし、ひどい別れ方をした過去を謝りたい。仕事の話も聞きたいし、涼介の顔をただずっと見ていたい。


少し前の私なら当たり前にできたはずなのに、なぜかその全部が上手くできなくなっていた。




それでも

不器用でもカッコ悪くても、涼介にもっと素直になっておけば良かった。思えばこの時が、無邪気に恋をしていられた最後の時だったのだ。
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