幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
「私、小さい頃あなたの家の近くに住んでいたの。
今でも思い出すけど、悲鳴やらドタバタいう音が煩くて嫌な家だった……。子供は遅くまで家の外にいて迷惑だし、シングルマザーの母親は柄の悪い男をとっかえひっかえ。典型的な問題家庭で笑えるくらいよ。
あなたがご近所で有名だったの知ってる?『あのお家の子には話かけたら駄目。可哀想だけど、関わるのはやめておきましょう』って」
「知らなかった。そんな、ことが」
今の『可哀想』はテキメンに効いた。平静を装ってもカサカサした声しか出てこない。小早川さんは私の惨めな過去を全部知ってたんだ……。
「別にあなたを馬鹿にしてるんじゃないの。むしろ羨ましいわ。だって絵に書いたような不幸を背負って、水瀬マネージャーの傍にいたんでしょ?」
「…涼介とは、小学校が一緒だったから」
「そう、残念だわ。私も私立に行かなければ同じ学校だったのね。
あの水瀬マネージャーだもの。可哀想な子がいたらきっと気になってしょうがなかったでしょうね。」
小早川さんの言う通り。涼介のノートには私を心配してくれる言葉ばかり書いてあった。
「ねえ、私思うんだけど、本当は水瀬マネージャーの方がトラウマ抱えてるんじゃないの?」
「トラウマ…?」
思ってもみない言葉にビクッとする。