幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
……
夜10時。ビル内の『別室』から解放された私は、人目を避けて中庭のベンチに移動した。観葉植物が淡くライトアップされている薄暗い場所で、冬の間は人がいないからうってつけだった。
「ほんっと馬鹿でしょ」
「ごめんなさい、自覚してます」
「もう少しで警察沙汰だぜ?」
「そこまでの騒ぎになると思ってなくて…、フォローしてくれて助かりました」
まだお酒が残ってるのか、頬を上気させた山下さんに睨まれる。山下さんは騒ぎを聞き付けるなり会社に戻ってきてくれたそうだ。
「勝手なことする前に一言くらい相談しろよ。証拠が不十分でも、本人が認めてたら会社の処分は止められねーよ。」
数時間前、小早川さんから、消えた在庫の場所を聞き出した後のこと。細かい調査をされる前に全部終わらせてしまいたかったので、「私がやりました」と処分を受け……つまり先ほど、解雇されたところだった。
まさか警察にまで話が及ぶとは思わなかったので、助けて貰えなかったら色々と危なかった。いつも山下さんには頭が上がらない。
「環くんがいなくなったら、俺は…アンルージュの仕事はどうするんだ」
「ごめんなさい。アンルージュのことは、これからも山下さんにお願いできればと」
「簡単に言うな、馬鹿」
山下さんが口を引き結んで前髪をくしゃっと散らした。ずっと熱心に指導してくれたのに、いきなり解雇になってしまったので怒るのはもっともだと思う。
「どうして、そこまでして小早川を庇う?」
「違うんです。ずるい方法で手に入れたものは還さなきゃって思って。
この会社で働ける立場も…涼介が同情してくれた結果なら、図々しく受け取るのは駄目だと思うんですよ。」
「正社員への推薦のこと言ってるなら、そんな簡単な話じゃないんだけどな。」
山下さんはオークの試用期間と査定について説明してくれた。
山下さんの他にも何人かが私の働きぶりをチェックして、部門長の許可が降りた結果、採用となったらしい。評価してもらえたのは素直に嬉しかった。関わってくれた人を裏切る結果となってしまったのが、同じくらい残念だけれど。
「それにしたって、普通に辞めればいい話だろ。どうして環くんがやってもない罪を被って辞めさせられなきゃなんないんだよ」
「ごめんなさい…」
山下さんが珍しく喉を詰まらせるから、バスケの実業団を辞めた時の記憶が甦った。私はまた、期待してくれる人を裏切ったのだ。