幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
ある日学校から帰るとママは寝てて、ママの隣に知らない男の人がいた。
「それくらいはいつものことなんだけど。ちょうどその時は、男の人がママのお財布からお金を抜いてるのが見えたんだよね。
『駄目だよ』ってお財布を取り上げようとしたら、その人には力で勝てなくて。
『この俺を泥棒扱いとは随分なガキだな』って顔をおもいっきり殴られて、羽交い締めにされてね」
涼介は静かに話を聞いていたけれど、私を抱きかかえる手が冷たくなってる。
「私の背中を見て『そのうち死ぬだろと思ったのに、よく育ったなお前』って言ったの。
このオジサン、小さい頃に私が火傷したの知ってる?ってことは、もしかしてこのオジサンが私の父親?
そう思ったらぐらぐら腹が立ってきて、火傷がコイツのせいなら、何されても絶対に一発は殴ってやるって決めたわけ。
危ない?…まぁ、その時は私も凄く怒ってたからさ。でもね、想像とは違ってた。
『お前の父親? なわけないだろ』
『へぇ…ラッキー、あんたみたいなのと血の繋がりがなくて』
『どうだかな。お前の母親も大概だろ。むしゃくしゃして赤ん坊にタバコ押し付ける女だぜ』
『え…』
それを聞いて目の前が真っ暗になって、抵抗することもできなくなっちゃってね。制服を捲られても、体を触られても他人事みたいにぼんやりしてた。
でも結果的に体は大丈夫だったんだ。ママが起きたから。
ママは物凄く怒ったけど、私のために怒ってくれたんじゃなかった。『男みたいな体してるくせに』とか、『その歳で男を誘うなんて』とか、ね。
当時は何で怒られてるのかわからなかったけど、今考えてみれば、諦めて無抵抗で触られてる私は……ママにはきっと私が……っとごめん、上手く言えないけど、分かってくれる?
襲われそうになったことより、その時のママの方が怖くて。火傷のことも結局ずっと聞けなくて。
それ以来、私はママの彼氏の前では『息子』でいる約束なの。ママは元々私が女の子の格好するのを嫌がってたけど、その日からは制服すらNGなくらい徹底してる。
……話すことは、これくらいかな」
話終えて息をつくと、涼介の肩が小刻みに震えてるのがわかった。「話してくれてありがとう」と、微かな声が聞こえる。
「あの時……そんな素振り少しも見せてなかったのに……」
振り返ると、驚いたことに涼介の目からぼたぼたと涙があふれていた。私の背中までコップの水を溢したみたいに濡れてる。
「な、な、泣かなくてもいいじゃない!涼介が泣いてるの初めて見るんだけど!?」
「…っ。あの日お前、能天気な顔で幸せって言ってたんだぞ?頬腫らしてるくせに、殴られてラッキーだって……笑って……」
「ごめんね、大丈夫って言ってれば大丈夫になるって思いたくてさ」
顔を歪ませた涼介の瞳から、後から後から滴が落ちる。
こんなに泣いてる男の人を見たのは初めてかもしれない。呆気に取られて、過去の記憶をなぞった痛みすら遠のいていく。
「えーっと大丈夫…?」
「っぐ…大丈夫なわけないだろ…お前の方こそ引くなよ、俺が泣いたくらいで」
「ごめんバレた?」
「ばかせめて否定しろ…っ」
泣きながら悪態をつく涼介にちょっと笑ってしまって、そういえばこの事で私は泣いてなかったなと気がついた。あの時は、傷付くことすら許されない気がしてたから。
「もう大丈夫だから、ね?可哀想って思わないで」
「それくらいはいつものことなんだけど。ちょうどその時は、男の人がママのお財布からお金を抜いてるのが見えたんだよね。
『駄目だよ』ってお財布を取り上げようとしたら、その人には力で勝てなくて。
『この俺を泥棒扱いとは随分なガキだな』って顔をおもいっきり殴られて、羽交い締めにされてね」
涼介は静かに話を聞いていたけれど、私を抱きかかえる手が冷たくなってる。
「私の背中を見て『そのうち死ぬだろと思ったのに、よく育ったなお前』って言ったの。
このオジサン、小さい頃に私が火傷したの知ってる?ってことは、もしかしてこのオジサンが私の父親?
そう思ったらぐらぐら腹が立ってきて、火傷がコイツのせいなら、何されても絶対に一発は殴ってやるって決めたわけ。
危ない?…まぁ、その時は私も凄く怒ってたからさ。でもね、想像とは違ってた。
『お前の父親? なわけないだろ』
『へぇ…ラッキー、あんたみたいなのと血の繋がりがなくて』
『どうだかな。お前の母親も大概だろ。むしゃくしゃして赤ん坊にタバコ押し付ける女だぜ』
『え…』
それを聞いて目の前が真っ暗になって、抵抗することもできなくなっちゃってね。制服を捲られても、体を触られても他人事みたいにぼんやりしてた。
でも結果的に体は大丈夫だったんだ。ママが起きたから。
ママは物凄く怒ったけど、私のために怒ってくれたんじゃなかった。『男みたいな体してるくせに』とか、『その歳で男を誘うなんて』とか、ね。
当時は何で怒られてるのかわからなかったけど、今考えてみれば、諦めて無抵抗で触られてる私は……ママにはきっと私が……っとごめん、上手く言えないけど、分かってくれる?
襲われそうになったことより、その時のママの方が怖くて。火傷のことも結局ずっと聞けなくて。
それ以来、私はママの彼氏の前では『息子』でいる約束なの。ママは元々私が女の子の格好するのを嫌がってたけど、その日からは制服すらNGなくらい徹底してる。
……話すことは、これくらいかな」
話終えて息をつくと、涼介の肩が小刻みに震えてるのがわかった。「話してくれてありがとう」と、微かな声が聞こえる。
「あの時……そんな素振り少しも見せてなかったのに……」
振り返ると、驚いたことに涼介の目からぼたぼたと涙があふれていた。私の背中までコップの水を溢したみたいに濡れてる。
「な、な、泣かなくてもいいじゃない!涼介が泣いてるの初めて見るんだけど!?」
「…っ。あの日お前、能天気な顔で幸せって言ってたんだぞ?頬腫らしてるくせに、殴られてラッキーだって……笑って……」
「ごめんね、大丈夫って言ってれば大丈夫になるって思いたくてさ」
顔を歪ませた涼介の瞳から、後から後から滴が落ちる。
こんなに泣いてる男の人を見たのは初めてかもしれない。呆気に取られて、過去の記憶をなぞった痛みすら遠のいていく。
「えーっと大丈夫…?」
「っぐ…大丈夫なわけないだろ…お前の方こそ引くなよ、俺が泣いたくらいで」
「ごめんバレた?」
「ばかせめて否定しろ…っ」
泣きながら悪態をつく涼介にちょっと笑ってしまって、そういえばこの事で私は泣いてなかったなと気がついた。あの時は、傷付くことすら許されない気がしてたから。
「もう大丈夫だから、ね?可哀想って思わないで」