幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
急いで倉庫に向かうと、途中で警備員さんに呼び止められた。


「おにーさん、今日は貨物用のエレベーター点検中なんだよ。ごめんね」


「そうなんだ、教えてくれてありがとう!」


10階にあるB倉庫に行くと、中にはアパレル関連の品物がぎっしりと詰まっていた。その一部のスペースにアンルージュの店舗用の什器やディスプレイボディ、商品などが詰まった段ボールがうず高く積まれている。


「うわぁ……すごい量」


今までこんなに多くの在庫を抱えたことはなかった。大量の商品を準備しているのは、それだけたくさんのお客様が来てくれるから。新しい店舗のオープンにワクワクしながら夢中で検品をしていたら、終わる頃には夕方になっていた。


「さて、あとはちゃちゃっと運ぶか!」


段ボールを10階から1階に下ろして、ビルの外をぐるっと回って西棟へ。エレベーターの代わりに階段を使うとまるでフットワークのような運動量になる。オフィスに戻ったときには夜7時を回っていた。


「小早川さん、終わったよ!」


報告をすると小早川さんにじいーっと不審げな顔を向けられた。彼女は何かぶつぶつと呟いている。「どうしたの?」と聞くと大きなため息が返ってきた。


「報告が遅すぎます。作業が遅れるなら途中で連絡して下さい」


「ごめんなさい、貨物用のエレベーター止まってて」


「それなら明日運べば良かったのに。河原さんって融通の利かない人ですよね」


あれ?今日のうちに必ずやらなきゃいけない仕事だったんじゃ……。

その疑問を投げ掛ける前に小早川さんは退社してしまったので、もう確かめようがない。多分私が確認を漏らしていたんだろう。


「環くん、今日は残業?」


「すみません、作業遅くなっちゃって」


同じオフィスで働いている園田さんと山下さんが一緒に休憩している。


「環くん、なんか……あれ……?」


園田さんが何度もまばたきをして目を細める。人の良さそうな園田さんの顔に、くっきりと眉間のシワが刻まれた。


「疲れ目ですか?この辺のツボ押すとちょっと楽になりますよ」


頭に手を添えて眉毛の目頭付近を押すと、「うっひゃあ」と不思議な悲鳴を上げられた。


「ごめんなさい、痛かったですか?俺、馬鹿力だから」


「『俺』ね……そうだよね。僕疲れてんのかな」


「?」

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