幼なじみの甘い牙に差し押さえられました

6 失意のリバーレース

「うわー魂抜けてんな。二日酔いか?」


週が開けて出社した時には、目を合わせるなり山下さんが顔をしかめる。それもそうだ。

涼介がいてくれたから何とかやり過ごす事ができたものの、まだ心の中ではママとあの男のことがくすぶっている。きっと酷い顔をしてるんだろう。


「大丈夫です、仕事はちゃんとしますよ」


「おう、働けよ」


山下さんは特に気にするでもなく仕事を始める。その近くにある涼介のデスクは空席だ。今週は出張でしばらく帰れないと言っていた。


結局、涼介には心配をかけたままになってしまった。

オフィスを見渡すと社員の人はみんな忙しそうで、他人のことはあまり気にしていない。明るくて華やかで、だけどどこか一線を感じる。いつもの会社の雰囲気だ。



……と思いきや、同じようで何かが違う。


山下さんが凄く仕事に集中してる気がする。普段ならコーヒーを片手に社内のあちこちの人と話をしてるのに、今日に限って静かにデスクに向かっていた。


いつまでも静かな山下さんが気になって目を向けると、視線をパソコンのモニタに落としたまま何か考え込んでいる様子だ。



「なんだ?俺が仕事してるのがそんなに珍しいか」


「そうですね」


「そこは社交辞令でも『そんなことありません』とか言えよな」


ぽふっ、と何やら丸めた紙で頭を叩かれる。


「環くんも、腑抜けになってる場合じゃねーぞ。助走はもう終わりだ。この俺が本気を出したらからには『差し押さえ』なんてすぐに終わらせてやる」


「え??」


『差し押さえ』って、涼介との約束のことだろうか?どうして山下さんが知ってるんだろう?
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