Sign of Love
 背中が見えなくなって、タクシーのテールランプが、連なっていく車でかき消されてしまっても、わたしはそこから動けずにいた。

「結局、お礼言えてない……」
 呟いた声は、あっという間に風がさらっていった。



 週末の企画は無事に成功を得た。
 仕事が少し落ち着いたらあらためて電話しようと、坂巻さんの電話番号はそのまま携帯に残してあった。

でも、よく考えたら、あんな時間まで残業するくらい忙しかった坂巻さんを無理矢理呼びつけておきながら、わたしだけが自分の都合で電話をかけるのも図々しい。

それに、勢いで送りつけた失礼すぎるFAXも、泣きながら電話したことも、きちんとお礼すら言えていないことも、全部が情けなくて、恥ずかしかったし、何よりも――もう一度、ほんの少しだけでいいから声が聴きたいと願う、浅ましい下心を上手く隠せる自信がなかった。

 色々なことを考えて、時間が経ってしまうにつれて、一体どんなことを話したらいいのかがわからなくなってしまい、結局そのままにしてしまっていた。
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