願わくは、雨にくちづけ

 翌日、立花は仕事を終えた足で虎ノ門に車を走らせた。
 ESFOODSの社屋に入ったのは初めてで勝手が分からないので、受付嬢が終業する前には間に合ってホッとする。

(伊鈴には知られないようにしないとな)

 彼女に言えば、きっと自分で話しておくと言いかねないので、勝手を承知でやってきてしまったのだ。


「立花と申します。営業部の新井さんはいらっしゃいますか?」
「本日、アポイントはございますか?」
「いいえ、突然の訪問で大変失礼とは存じておりますが、お取次ぎ願いたいのです」
「かしこまりました。確認いたしますので、ソファにおかけになってお待ちください」

 受付から連絡を入れてもらってから数分、行き交うスーツ姿に目を凝らす。
 会ったこともない新井がどんな男なのか分からないし、おそらく向こうもそうだろう。

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