願わくは、雨にくちづけ
さらに5分ほど経った頃、1人の男が立花の方へと足を向けてくる。
すらりとした体型にスーツを着こなし、若々しくエネルギッシュで爽やかな男だ。
「新井と申しますが、立花さんでしょうか?」
「はじめまして、立花と申します。突然お呼び出ししてしまい申し訳ありません。お忙しい中ありがとうございます」
名刺を差し出してきた新井に、立花も同じように応じる。
伊鈴との通話を勝手に切ったりした割に、実際の彼は真面目そうな印象さえ受けた。
受付前に6つほど設けられたソファセットで、テーブルを挟んで向かい合う。
「あの……私にどのようなご用件でしょうか。貴店でご使用になられる材料をお探しでいらっしゃいますか?」
「いえ、今日は私用で伺っております。新井さんもご多忙と思いますので、手短に用件を話してよろしいでしょうか」
「ええ」
着物姿の立花を前にしても、新井はまったく動じる様子はない。
「十河伊鈴のことです」
「……もしかして、彼氏さんですか?」
伊鈴の名前が出たところでようやく合点した新井は、驚きをありありと表情にだし、目を丸くした。
まさか対面する日が来るとは思っていなかったのだろう。