願わくは、雨にくちづけ

(こぢんまりとしているけれど、ご夫人の目は確かだな)


 八神夫人は、立花との関係を〝お茶会仲間〟と言い、陳列してあるパンを早速眺めている。
 mon angeのパンは、どれも仕事が丁寧だ。そして、看板商品のクロワッサンの隣に、新作のあんこクロワッサンが並んでいるのを見つけた。

(伊鈴に両方買っていこう。きっと喜ぶだろうなぁ)

 美味しそうにパンを頬張る伊鈴を想像するだけで、立花の気持ちがふわりと温かくなる。
 彼女の笑顔がなによりも大好きな彼は、トングとトレーを手に、商品の前に立った。


「八神さん。実は、あと数日でお店を畳まなくてはいけなくなるかもしれないんです」
「えぇっ!? どうされたんですか?」

 しかし、突然聞かされた閉店話に、クロワッサンに伸ばした手を止めた。
 心底驚いている様子の八神夫人とともに、立花は店主の話を聞くことにした。

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