願わくは、雨にくちづけ

「仲よくしてるの? ふたりでランチに出たりとか」
「ふたりで行くことはないですよ。新井くんは人気者だから、お誘いがいっぱいなんです」
「なるほど」

(不特定多数の女性社員と仲よくするあたり、伊鈴の元彼みたいなヤツじゃなければいいが)

 どんな関係であれ、愛する彼女が傷つけられるのが許せない立花は、会ったこともない新井に警戒心を抱く。

(煌さん、怒ってなさそう。よかった……)

 告白されたこと以外、正直にきちんと話せたおかげで胸のつかえが下りた。
 温厚な立花が憤慨するイメージがなかった分、どれほどのものなのか考えるだけで生きた心地がしなかったのだ。


「あ、そういえば、さっき新井くんにいい匂いがするって言われたんですよ」
「……それで?」

 湯呑みをテーブルに置いて、立花はソファの背に大きくもたれる。

 
「昨日一緒にいたから、煌さんの香りが移っちゃったみたいで」

 伊鈴が口を開けば開くほど、途端に和やかな空気が張りつめ、とうとう温厚な彼の微笑みはうかがえなくなった。

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