願わくは、雨にくちづけ

「伊鈴は、俺を悲しませるようなことはしないって、わかってるよ。だから、そんな顔しないで」
「でも、さっきは一方的に電話を切ったりして……」
「ん? 伊鈴が切ったの?」

 問いかけに、伊鈴は小さくかぶりを振る。


「同僚が勝手に……。たぶんお酒が入ってるテンションで、いたずらしてきただけだと思うんです」
「そう」

(どうしてそんなに同僚の男を庇うんだ?)

 伊鈴が、他の男を擁護するような言い草に、立花は嫉妬しはじめた。


「その人、どんな人?」

 急須から焙じ茶を淹れながら、立花が尋ねる。


「今秋、中途で入ってきた2つ下の新人の男の子です」
「伊鈴の後輩か」
「はい。新井くんっていうんですけど」

 できるだけ穏やかな声色で返した立花は、微笑みを浮かべる。
 伊鈴のことだから、質問をぶつければ素直に口を割るだろうと考えたのだ。

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