願わくは、雨にくちづけ
「1年経ったんだなぁって考えてたんです。煌さんに出会えて、本当によかったなって」
伊鈴が素直に心のうちを伝えると、立花は眼鏡の奥の涼やかな瞳を一瞬丸くして、すぐに視線をそらしてしまった。
(どうしたんだろう。私、変なこと言ったかな)
いつだってまっすぐに伊鈴を見つめてくるはずなのに、立花は彼女に顔を見せないようにして横断歩道を渡り始めた。
「煌さん」
「なに?」
「どうしたんですか? 私、変なこと言ったつもりないんですけど」
(もしかして、過去のことを思い出してたから、拓也のことを考えてたって思われたかな……。そうじゃないんだけどなぁ)
伊鈴は、立花の返事を待たずに言葉を続ける。
「私、煌さんと出会ってから、他の人のことなんて考えたことありませんからね? 1年前の雨の日だって、家まで送ってもらった後、すぐに会いたいって思ってたし、お店に会いに行くまで毎日煌さんのことばかり……っ!?」
横断歩道を渡り終えたところで、立花が突然足を止め、人目も憚らずに伊鈴を抱きしめた。