願わくは、雨にくちづけ
「煌さん?」
「お願いだから、もう黙って……」
伊鈴の耳元に顔を埋めた立花は、掠れがかった甘い声で呟く。
車の音や同じように週末を銀座で過ごす人たちの声や足音に混ざることなく、しっかりと聞こえた彼の言葉は、どうにも切なげだ。
(煌さん、どうしちゃったの?)
黙れと言われたからには、それ以上口を挟めず、伊鈴は立花の腕の中で彼の鼓動を聞いた。
「そんなこと、どうして急に言うの? 俺を困らせたい?」
「……えっ?」
「それが、伊鈴の我儘なのか?」
意味が分からず、頭を捻る。
彼を困らせてみてほしいと、我儘三昧を許されてはいるが、そんなつもりで言ったわけではないからだ。
背中に、買ってもらったばかりのブレスレットが入った青い袋が当たる。
「伊鈴、こっち見て」
言われた通りに、彼の胸元から顔を上げると、薄紅色に染まった立花と目が合った。
「こういう困らせ方をするなんて、伊鈴もなかなか意地悪だな」
(煌さん、照れてるの!?)
いつも余裕たっぷりで頼りがいがあって、今日は特別に格好いい彼を初めて〝かわいい〟と思えた瞬間だった。