願わくは、雨にくちづけ

 トリュフを贅沢に使った前菜や、ボタン海老や鱸などの海鮮をエピナソースと楽しむ一皿など、コース料理を堪能し終わる頃、ワインを飲んでいた伊鈴は少し酔い始めていた。
 しかし、良酒は急激に酔いが回ることもなく、その余韻を楽しむようで心地いい。


「ご馳走様でした」
「どういたしまして」

 帰りも、立花は抜かりなく伊鈴をエスコートする。近隣の駐車場まで決して手を離さず、段差のある所では背中に手を添え、ヒールで歩く彼女が少しでも歩きやすいように道を選んでくれた。


「ごめんなさい、私だけ飲んじゃって」
「気にするな。俺は車があるから仕方ないんだよ」

 そうは言っても、あんなに美味しい料理とワインだったのだから、きっと彼も堪能したかっただろう。


「あとで飲むから大丈夫。伊鈴にも付き合ってもらわなくちゃな」

 立花に少しずつ日本酒やワインなどを教えられてきただけあって、伊鈴も幾分かお酒に強くなった自覚がある。
 とはいえ、元々の弱さを知る立花は、彼女の様子をうかがいながら愛車の助手席に乗せた。

< 66 / 135 >

この作品をシェア

pagetop