願わくは、雨にくちづけ
「伊鈴? 大丈夫?」
(歩いたから酔いが回ったか?)
日本橋へ向かう車中で、立花は助手席の伊鈴を案ずる。
「ちょっとは酔ってますけど、でも平気です。これからどこに行くの?」
「今夜はホテルに泊まろう。部屋を取ってあるんだ」
「……はい」
いつも立花の自宅に泊まっていたので、外泊をするのは久しぶりだ。
そのつもりがなくとも、響きだけで意識してしまう。
(部屋に着いたら、きちんと話そう。それがお互いのためだもの)
立花はなにも言わないけれど、気にかけているに違いない。
伊鈴は、新井からの告白を断ったことを伝えると決めた。
到着したホテルは、都内有数の5つ星だ。ふたりが車寄せで降りると、ドアマンが立花に変わって駐車を済ませる。
その間に、彼のエスコートでロビーに入った伊鈴は吹き抜けの高い天井や螺旋階段などの絢爛さに目を奪われた。
(こんなにいいところに泊まるの!?)
立花が選ぶものはどんなものでも一流で、ことあるごとに伊鈴を驚かせる。
間違いなく最高のサービスが受けられるのだが、そんな彼に自分が見合うのかと、そのたびに思わせられるのも事実だった。