願わくは、雨にくちづけ
「ここに泊まるとは思ってなかったんだろ? 今夜は特別だよ」
チェックインを済ませた立花が戻ってきた。
場に慣れず、ロビーのソファにちょこんと座っていた伊鈴の手を取って、ゆっくりと立たせる。
「泊まったことあるんですか?」
彼の自宅は都心にあって利便も悪くないし、外泊は不要と言っても過言ではない。
それでも、こんなに上等なホテルにすんなりと馴染んでしまうのは、彼の人となりが見合っているからに他ならないのだ。
(そういえば、1年前に泊まったホテルもすごく豪華だったなぁ)
立花の隣をずっと歩いていく自信があるのかと考えるようになっていた伊鈴は、この1年で感じた格の違いのようなものを改めて感じていた。
「そんなに回数はないけどね。株主優待とか、そういうので利用させてもらうことがあるくらい」
「か、株主なんですか?」
「取引先でもあるから、持ちつ持たれつだよ」
さあ、おいでと言わんばかりの微笑みを向けながら、彼は伊鈴の手を引いてエレベーターに乗り込んだ。