氷室の眠り姫
遠き過去


「もし、許されるなら……紗葉が目覚めるのを待ちたいと思います」

紗葉の寝顔を見つめたまま呟かれた流の言葉に、柊と樹が目を見開いた。

「ちょっと待て、流。そんな簡単に言うな」

「簡単に言ってるつもりはない。元々、紗葉を浚うつもりで乗り込んだんだ」

樹の言葉を歯牙にもかけずに流はスルーして優しい眼差しで紗葉を見つめる。

しかし、柊はそれを許すわけにはいかなかった。

「流、それを認めることはできない」

冷ややかとも取れる柊の言葉を、さすがに流も無視できなかった。

「何故ですか?時間がかかっても紗葉は目覚めるのでしょう!?」

「……紗葉がそれを望んでいないからだ」

紗葉が黙って自分の前から姿を消したことを考えればそれもあり得ることで、流は一瞬言葉を失った。

「で…ですが!」

そもそも紗葉が消えたことも納得できていない流は尚も言い募ろうとする。

しかし、そこに一人の女官が慌てた様子で氷室に駆け込んできた。

「柊様!」

「何事だ?神聖なる氷室で、騒々しいぞ」

「も…申し訳ありません。ですが、お客様が……」

「客?今日は何の約束も入れてなかったはずだが」

訝しむ柊に対して、女官は真っ青な顔色で訪問者の名前を告げた。

「前主上の、上皇様のご正室、爽子様です!!」

さすがの柊もザッと顔色を変えた。

「何故、今…?いや、考えるのは後だ。爽子様をお待たせするわけにはいかん。流、悪いがお前との話も後だ」

流も慌ただしくする話でないのは分かっていたので、黙って頷いた。

「とりあえず、爽子様を客室にご案内してくれ。流は隣室に控えていろ」

その言葉に驚いたのは樹だった。

「父上、よろしいのですか?隣室では話も聞こえてしまいますよ?」

「構わない。爽子様がいらしたのは紗葉に関することだろう。確かに流も無関係とは言えない」

そう言いながら、柊は真剣な表情を流に向けた。

「ただし、爽子様の話がどんなものであっても、口を挟むことは許さない。わたしが必要と判断したらきちんと場を設ける」

「はい、分かりました」

柊の迫力に圧されるような形ではあったものの、流は素直に頷いた。


柊と樹も突然の爽子の訪問の目的が分からずに困惑を隠しきれずにいた。

「失礼いたします」

柊たちが部屋に入ると爽子が優雅にお茶を口にしながら寛いでいた。

「爽子様、お待たせいたしました。この度の突然の訪問、どうなされましたか?」

柊はあえて紗葉の名前を出さずに尋ねた。

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