エリート部長の甘すぎる独占欲~偽装恋愛のはずでしたが!?~
声を掛ければハッとして微笑んでくれたけど、その後も一誠さんはどこか上の空で、ホテルを出たところで私にこう言った。
「巴。自分でタクシーを捕まえて帰れますか?」
「え? はい、できますけど……」
本当は、もっと一誠さんと話がしたかった。百合さんのこと。彼女の裏切りのこと。聞きたいことを挙げたらキリがないくらいだから。
私の心細い表情に気付いた彼は、眉尻を下げて申し訳なさそうに言う。
「僕はちょっと急ぎの用事ができました。……ごめんね。気を付けて」
「はい。……おやすみなさい」
「うん。おやすみ」
優しく微笑んだ彼は、最後に私のおでこに唇を寄せ、ちゅっとキスをしてくれた。
でも、そんなことで安心できるはずもない。
私たちの関係は、確実に終わりに近づいている。それは、初めに約束した一か月という期間よりも早く訪れてしまうのではないか。
だとしても、私にはその運命の流れに抗えるほどの自信なんてないよ……。
私はそんなことを思いながら、遠ざかっていく彼の後ろ姿を切なく見つめていた。