エリート部長の甘すぎる独占欲~偽装恋愛のはずでしたが!?~
「全然終わる気がしない……」
裁縫は苦手だと班の皆にも主張し、私のノルマは少なくしてもらったはずなのに、なかなか終わらない作業に途方に暮れ、机におでこをつける。
女子力の高い露子はともかく、成田くんは男の子なのに手先がめちゃくちゃ器用で、一番に自分のノルマの分を作り上げていたから驚いた。
針を持つ手がおぼつかない私に『手伝いましょうか?』とも言ってくれたけど、先輩としてのプライドが邪魔して、『大丈夫』なんて言っちゃったんだよね……あの時、素直にお願いしておけばよかったな……。
ちらりと壁に掛けられた時計を見ると、もうすぐ午後八時になろうというところ。
数十分前は私のほかに数人残っていた社員たちも今では皆帰ってしまい、広いオフィスにぽつんとひとり残された感じもまた切ない。ああ、お腹すいたな……。
すっかりやる気はどこかへ行ってしまい、虚ろな瞳でオフィスの景色をただ眺めていたそのとき。
「お疲れ様です。まだ、残ってたんですね」
背後でドアが開いたのと同時に、ついさっき頭に思い浮かべていた、可愛い後輩の声がした。