さようなら、初めまして。
「あのおばあさんは元気?」

「あ、大家さん?」

「うん、大家さんの百子さん」

「はい、ちょっと、最近風邪をひいていたみたいでしたけど、今はもう善くなりました。元気ですよ」

ん?

「ん?」

「…あ、何でもないです」

疑問?て顔になってたんだ。
…百子さん、て、私、あの日、呼んだんだっけ…。言ったのよね、じゃないと名前とか知らないだろうし。

「普通の話し方でいいよ。です、ます、口調でなくて。自然にで」

「え?はい」

「はいも、うんで」

「はい、あ、うん、で」

「うん」

「うん、はい…フフフ」

「ハハ。ご飯…、今度、ご飯に行かないか?」

「…え」

「あー、何か変か…。今、珈琲どう?て誘って、もう次のご飯って」

「…変ではないけど」

どうして…そんなに…?

「じゃあ、明日」

「え、明日?!」

「明日。急すぎて無理か」

無理っていうか、急には訳があるのかな。その日を逃すと暫く忙しいとか?

「明日が駄目なら明後日は?明明後日は?」

あ…。そうじゃなかったんだ。…フフ。

「では、明日、大丈夫ですよ?」

そうすれば、私もこの前のお礼がもっとちゃんとできる。代金は私が払おう。

「じゃあ、明日。このくらいに仕事は終わってる?」

「はい。今日より遅くはならないと思います」

「じゃあ、あそこで待ってるよ。足つっこんだグレーチングのところ」

「あ、それ、グレーチング、どんな呪文の言葉かと思いました」

「…ん?ああ、ハハハ、呪文て。ハハハ。あのメッシュ状の蓋の事だ」

「グレーチングていうんですね。ちゃんとした名前があるなんて知らなかった」

「俺も知らなかった」

「え、じゃあ?」

「なんていうんだろうって、昔、調べて知った。仕事とかで関わってでもないと中々知らない名前だよな」

「そうなんですね、そうですよね」

なんだろう、て思うのに、私はそのまま終わらせてしまいがちで、解らなければ直ぐ人に聞いてしまう。
…私とは違うな。
でも、グレーチングかぁ、せっかく教えてもらったのに…忘れちゃうかも。
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