さようなら、初めまして。
「勝手に決めて悪いけど、行き違うといけないから、明日は7時って事にしておこうか」
「あ、はい、解りました」
「遅れてもいい、あまり早くから居たら駄目だぞ」
その言い方に何故だかドキッとした。
「あ、はい。遅れないくらいに、来ておきます…」
危ない目に遭わないようにって事だ。
「うん、そのくらいでいいから」
…。
「ブランコ、乗るか」
「え?」
なん、で…。
「あ、あぁ、乗りたくないならいいけど。乗りたいならつき合う」
あ。なんで、どうして?は、私の勝手な思いだ。ジンさんは…知らない事だ。
ブランコは好き。前から好き。それはどうでも…、知らなくても、ただブランコがあるから、ジンさんは乗らないかって言っただけだ。
「子供じゃないから、乗りたいけど恥ずかしい、って」
「え?」
それって…。
「あ、っと…。そう思うだろ、普通。俺らは大人だから。だから、乗りたいなら一緒に、つき合うよ」
あ、そうか。また、恥ずかしい事を共有しようとしてくれてるんだ…。だから言ったんだ。
「では…はい。乗ります」
ベンチにカップを置き、ブランコに移動した。
順番を待ってる子供も居ない。誰も居ない。貸し切りだ。そういう意味では恥ずかしくはない。
チェーンを掴み、板を確認して腰掛けた。…しっかり座らなきゃ腰が落ちてしまう、フフ。
後ろに歩き、足を離した。足を伸ばし、曲げ、前後に揺らした。…久し振り、凄く久し振り。
ギーギーと音をたて、行ったり来たり、浮いて揺れてるこの感覚…凄く、久し振り…。
今更だけど、大人の体重って、大丈夫だったのかな。
「ガンガン漕がないのか?」
「え?あ、うん。…今日はいいんです…」
懐かしい…。前…、乗った時は、頑張って、立ち漕ぎもしてみたんだった…。
「そうか。気分じゃないのか」
…あ。何だかさっきから……ううん。これは何でもない普通の会話だ。誰だって言うだろう。
「今日は、ゆっくり揺れてるだけでいいんです…」
隣で揺れていたジンさんが止まった。降りてこっちに来た。
「ほら、押してやる」
「え、あ、わっ。ちょっと待って…」
背中を押された。…押してくれた。別に…いいのに。どうして…?
「どうだ?楽だろ。もっと、押すぞ?」
「…うん…はい。…楽しい…です…」
ドンドン大きく揺れる。
…恐がりながら、でも、楽しくて…。楽しくて、切ない…。
「…あ。どうした…。強かったか?恐かったか?」
「ううん、…大丈夫です…。恐くないです」
…思い出しただけ。二人で子供みたいに、もっと押すぞって、気遣いながら、こうして背中を押してくれた事。
悠人を思い出しただけ。だから複雑になっただけ。
「…そろそろ、帰るか」
もう押してはいなかった。もう一つのブランコとの間にジンさんは立っていた。
「あ、はい…そうですね」
チェーンを掴んでゆっくり時間をかけて止めてくれた。
「…アイ」
あ。呼び捨て…?
「は、い」
なんだろ、…あ。
「ごめん…、ちょっとだけだ…」
腕を掴まれて立ち上がらせられた。伸びてきたもうひとつの腕で体を包まれた。
え、あ、…ジンさん?
…会う度、抱きしめられてる?どう、して…。
「あの…あ、の…」
「明日…待ってるから」
「え?あ、は、い、大丈夫ですよ」
念押しのために?
「…うん、待ってるから。ごめん…、送るよ」
「…はい」
まるでそうすることが当たり前のように体を離すと手を繋がれた。
部屋の前まで送られ、ジンさんは、明日な、って、帰って行った。
ジンさん…。んー、…。
…あっ。今、思い出すなんて。…アキちゃん。ごめ~ん。
携帯を取り出した。
【アキちゃんごめんなさい。私、会えた。あの日、アキちゃんが帰ったあと、直ぐ。ごめん連絡が遅くなって。ごめんー】
わー、ごめん。直ぐ教えるねって約束だったのに。
【もー、遅いっ!フフ、嘘。怒ってないよ、凄いよ、やっぱり何かロマンチック、良かったじゃん。道理であれから付き合ってって、連絡が来なかった訳だ】
【うん、ごめん、ホント、ごめん】
【会う約束とか、してたりして。だから浮かれて忘れちゃった?】
浮かれる?そんなの、まさか、違う。
【それは違うけど、さっきまで会ってた。でもそれは約束とかじゃなくて偶然会ったのよね】
鍵を取り出し、南京錠を掴み、差し込んで回した。外した鍵を手にカラカラと中に入った。内鍵を差し込み回した。
【え?そんな事に?凄い!運命。それで?また会うの?】
【うん、明日、ご飯に行こうって、待ち合わせてる】
【ワオ。やっぱり約束してるじゃない。例のあそこで?】
やっぱりって…。
【うん、そう】
【ん゙ーん。いいんじゃない】
【うん】
細かいタイルばりの玄関で靴を脱ぎ部屋に上がった。
ライトからぶら下がっている紐を引いた。
「あ、はい、解りました」
「遅れてもいい、あまり早くから居たら駄目だぞ」
その言い方に何故だかドキッとした。
「あ、はい。遅れないくらいに、来ておきます…」
危ない目に遭わないようにって事だ。
「うん、そのくらいでいいから」
…。
「ブランコ、乗るか」
「え?」
なん、で…。
「あ、あぁ、乗りたくないならいいけど。乗りたいならつき合う」
あ。なんで、どうして?は、私の勝手な思いだ。ジンさんは…知らない事だ。
ブランコは好き。前から好き。それはどうでも…、知らなくても、ただブランコがあるから、ジンさんは乗らないかって言っただけだ。
「子供じゃないから、乗りたいけど恥ずかしい、って」
「え?」
それって…。
「あ、っと…。そう思うだろ、普通。俺らは大人だから。だから、乗りたいなら一緒に、つき合うよ」
あ、そうか。また、恥ずかしい事を共有しようとしてくれてるんだ…。だから言ったんだ。
「では…はい。乗ります」
ベンチにカップを置き、ブランコに移動した。
順番を待ってる子供も居ない。誰も居ない。貸し切りだ。そういう意味では恥ずかしくはない。
チェーンを掴み、板を確認して腰掛けた。…しっかり座らなきゃ腰が落ちてしまう、フフ。
後ろに歩き、足を離した。足を伸ばし、曲げ、前後に揺らした。…久し振り、凄く久し振り。
ギーギーと音をたて、行ったり来たり、浮いて揺れてるこの感覚…凄く、久し振り…。
今更だけど、大人の体重って、大丈夫だったのかな。
「ガンガン漕がないのか?」
「え?あ、うん。…今日はいいんです…」
懐かしい…。前…、乗った時は、頑張って、立ち漕ぎもしてみたんだった…。
「そうか。気分じゃないのか」
…あ。何だかさっきから……ううん。これは何でもない普通の会話だ。誰だって言うだろう。
「今日は、ゆっくり揺れてるだけでいいんです…」
隣で揺れていたジンさんが止まった。降りてこっちに来た。
「ほら、押してやる」
「え、あ、わっ。ちょっと待って…」
背中を押された。…押してくれた。別に…いいのに。どうして…?
「どうだ?楽だろ。もっと、押すぞ?」
「…うん…はい。…楽しい…です…」
ドンドン大きく揺れる。
…恐がりながら、でも、楽しくて…。楽しくて、切ない…。
「…あ。どうした…。強かったか?恐かったか?」
「ううん、…大丈夫です…。恐くないです」
…思い出しただけ。二人で子供みたいに、もっと押すぞって、気遣いながら、こうして背中を押してくれた事。
悠人を思い出しただけ。だから複雑になっただけ。
「…そろそろ、帰るか」
もう押してはいなかった。もう一つのブランコとの間にジンさんは立っていた。
「あ、はい…そうですね」
チェーンを掴んでゆっくり時間をかけて止めてくれた。
「…アイ」
あ。呼び捨て…?
「は、い」
なんだろ、…あ。
「ごめん…、ちょっとだけだ…」
腕を掴まれて立ち上がらせられた。伸びてきたもうひとつの腕で体を包まれた。
え、あ、…ジンさん?
…会う度、抱きしめられてる?どう、して…。
「あの…あ、の…」
「明日…待ってるから」
「え?あ、は、い、大丈夫ですよ」
念押しのために?
「…うん、待ってるから。ごめん…、送るよ」
「…はい」
まるでそうすることが当たり前のように体を離すと手を繋がれた。
部屋の前まで送られ、ジンさんは、明日な、って、帰って行った。
ジンさん…。んー、…。
…あっ。今、思い出すなんて。…アキちゃん。ごめ~ん。
携帯を取り出した。
【アキちゃんごめんなさい。私、会えた。あの日、アキちゃんが帰ったあと、直ぐ。ごめん連絡が遅くなって。ごめんー】
わー、ごめん。直ぐ教えるねって約束だったのに。
【もー、遅いっ!フフ、嘘。怒ってないよ、凄いよ、やっぱり何かロマンチック、良かったじゃん。道理であれから付き合ってって、連絡が来なかった訳だ】
【うん、ごめん、ホント、ごめん】
【会う約束とか、してたりして。だから浮かれて忘れちゃった?】
浮かれる?そんなの、まさか、違う。
【それは違うけど、さっきまで会ってた。でもそれは約束とかじゃなくて偶然会ったのよね】
鍵を取り出し、南京錠を掴み、差し込んで回した。外した鍵を手にカラカラと中に入った。内鍵を差し込み回した。
【え?そんな事に?凄い!運命。それで?また会うの?】
【うん、明日、ご飯に行こうって、待ち合わせてる】
【ワオ。やっぱり約束してるじゃない。例のあそこで?】
やっぱりって…。
【うん、そう】
【ん゙ーん。いいんじゃない】
【うん】
細かいタイルばりの玄関で靴を脱ぎ部屋に上がった。
ライトからぶら下がっている紐を引いた。