さようなら、初めまして。
・3週間目
結局、お礼の物の準備をする時間もなく、翌日の約束の時間に私は待っている事にした。せめてご飯代の支払いが上手くできるといいけどと思っていた。
7時5分前だ。遅刻しないように気をつけて、ジンさんの言葉に甘えてあまり待たなくていいくらいに来た。
「アイちゃん!」
あ、ジンさん。私を見つけてくれた。人混みの中、こっちからも姿が見えた。時間より先に待っていてくれたようだ。
「ごめんなさい。長く待ちませんでしたか?」
「待って無い、丁度いい感じだよ」
良かった。でもそう言って早くから来てくれてた気がする。
「有り難うございます」
「ん?じゃあ、行こうか」
「はい」
どこに行くんだろう。私、久し振りに食べたくなった物があるんだけど。ちょっと、前向きに…頑張ってみようと思ったお店、そこのメニューだ。そのお店、もう随分行ってない。そこに行きたいんだけど。どうしよう…思い切って言ってみようかな。
「あっちにちょっと歩くよ?いい?」
「あ、はい」
…駄目だよね。きっともう決めてあるはず。違うお店に行きたいなんて…言えないよね。
「ここだよ」
あ…“洋食亭”…だ…。凄い偶然。ここ、ここに来たかったんです、私も。
「…ここのね、オムライスとハンバーグのワンプレート、通称、オムバーグ、好きなんだ」
「私も!…あ。私も。知ってます。食べたいなっていうか、来たいなって思ってしまってて。だから、今日、ここに連れて来てくれた事、本当に嬉しいです」
この嬉しいって言葉はどう取られてしまうかな……。歩きながら方向は同じだって思ってたけど。……はぁ、まさかここに決めてたなんて。…何だか。
「…それは良かった。じゃあ、入ろうか」
「あ、はい」
「…入る気持ちになれてて良かったよ…」
「え?」
「え?あ、ああ、あの量、ペロッと入るんだなと思って、ね」
「ぁあー、女のくせに、凄い食べるヤツなんだって、思われたんですね」
「うん」
話しながらドアを開けた。カランコロンと鳴った。このカウベル…変わってない…。
「あー、うん、て、酷いー。フフ、食べますよ?大好きですから」
案内は特にない。空いている好きなところに座っていいお店だ。入店を確認してくれていて、注文を聞きに来てくれる、……はずだ。自然と奥に向かい、テーブルに座った。
「デザートも?」
「え?はい、勿論です」
オムバーグ、本当は、悠人が手伝ってくれて丁度良かった。でも、そんな込み入った事情は、今、言う事でもない。ジンさんは無関係。知らなくていい事だし、興味もないだろう、男女の話…。いざ話すとなると、どこから話せばいいのか…、それに、ちょっと深刻になってしまうだろうから。
「本当かな~。ま、食べられなくなったら、俺に任せてよ、楽勝だから」
あ…。こんな事…。『俺に任せてよ、楽勝だから』…。こんな、そっくりそのままの言葉を聞くなんて…。
あ、いけない。
「…男の人にとったら、セットでも少ないのですかね」
「ん?女性にはちょっと多くて、俺らみたいなのには、ちょっと、少ないのかな。だから、男女一緒に、仲良く食べられるメニュー?」
「あ、そうですね。…計算されてる量なんですかね」
「そう。これは恋人向けのメニューだからね」
「え?」
「ん?知らなかった?これはね、昔、マスターと奥さんが食べて、仲良くなった事から、セットメニューにしたんだよ。好きな物を仲良く分けあって食べたから」
「知りません…、でした…」
『逢生、これにしよう、これに』。初めて連れて来てもらった時、メニューを見る暇もなく悠人に勧められた。結果、美味しくて大満足だった。あれは、悠人…そういうメニューだって、知ってたのかな。
コトッとコップを置く音がした。お水だ。「…いらっしゃいませ。楽しくお話しているところ、うかがってもいい?」と、声がして顔を向けた。あ、奥さん……私…。言付けたままのモノ……。でも、今は、……。
あ。優しく笑いかけてくれた。今は言わなくていいかな。私はチョコンと頭を下げた。
「オムバーグ2つ、いいよね、アイちゃん」
「あ、は、い、お願いします」
「いらっしゃいませ、逢生ちゃん……ご無沙汰でしたね…」
「…はい」
「また来てくれて嬉しいわ。デザートはどう?今日は丁度モンブランよ」
…この言い方はジンさんが居るからだ。
「それも。好きなんです、お願いします。あ、珈琲、ホットで。ね?いいよね?」
あ、ジンさん、返事、早。ジンさんもモンブラン好きなのかな…。奥さん、私に話し掛けてたのに、フフ、先に言われちゃた。
「はい、そうですね、お願いします」
「では、待っててね。直ぐ作るから」
おしぼりを置いてちょっと肩に触れ、カウンターに戻って行った。あ…奥さん。私……、あの事も覚えていてくれてたんだ。今、慌てて、何か言われないという事、態度にも出さない事は、あれから悠人、来てないって事だ……。悠人。
肩に置かれた手…、温かい手だった。
「さて、と…明日はどこに行く?」
悠人、…どこに居るんだろう。
「……え?」
7時5分前だ。遅刻しないように気をつけて、ジンさんの言葉に甘えてあまり待たなくていいくらいに来た。
「アイちゃん!」
あ、ジンさん。私を見つけてくれた。人混みの中、こっちからも姿が見えた。時間より先に待っていてくれたようだ。
「ごめんなさい。長く待ちませんでしたか?」
「待って無い、丁度いい感じだよ」
良かった。でもそう言って早くから来てくれてた気がする。
「有り難うございます」
「ん?じゃあ、行こうか」
「はい」
どこに行くんだろう。私、久し振りに食べたくなった物があるんだけど。ちょっと、前向きに…頑張ってみようと思ったお店、そこのメニューだ。そのお店、もう随分行ってない。そこに行きたいんだけど。どうしよう…思い切って言ってみようかな。
「あっちにちょっと歩くよ?いい?」
「あ、はい」
…駄目だよね。きっともう決めてあるはず。違うお店に行きたいなんて…言えないよね。
「ここだよ」
あ…“洋食亭”…だ…。凄い偶然。ここ、ここに来たかったんです、私も。
「…ここのね、オムライスとハンバーグのワンプレート、通称、オムバーグ、好きなんだ」
「私も!…あ。私も。知ってます。食べたいなっていうか、来たいなって思ってしまってて。だから、今日、ここに連れて来てくれた事、本当に嬉しいです」
この嬉しいって言葉はどう取られてしまうかな……。歩きながら方向は同じだって思ってたけど。……はぁ、まさかここに決めてたなんて。…何だか。
「…それは良かった。じゃあ、入ろうか」
「あ、はい」
「…入る気持ちになれてて良かったよ…」
「え?」
「え?あ、ああ、あの量、ペロッと入るんだなと思って、ね」
「ぁあー、女のくせに、凄い食べるヤツなんだって、思われたんですね」
「うん」
話しながらドアを開けた。カランコロンと鳴った。このカウベル…変わってない…。
「あー、うん、て、酷いー。フフ、食べますよ?大好きですから」
案内は特にない。空いている好きなところに座っていいお店だ。入店を確認してくれていて、注文を聞きに来てくれる、……はずだ。自然と奥に向かい、テーブルに座った。
「デザートも?」
「え?はい、勿論です」
オムバーグ、本当は、悠人が手伝ってくれて丁度良かった。でも、そんな込み入った事情は、今、言う事でもない。ジンさんは無関係。知らなくていい事だし、興味もないだろう、男女の話…。いざ話すとなると、どこから話せばいいのか…、それに、ちょっと深刻になってしまうだろうから。
「本当かな~。ま、食べられなくなったら、俺に任せてよ、楽勝だから」
あ…。こんな事…。『俺に任せてよ、楽勝だから』…。こんな、そっくりそのままの言葉を聞くなんて…。
あ、いけない。
「…男の人にとったら、セットでも少ないのですかね」
「ん?女性にはちょっと多くて、俺らみたいなのには、ちょっと、少ないのかな。だから、男女一緒に、仲良く食べられるメニュー?」
「あ、そうですね。…計算されてる量なんですかね」
「そう。これは恋人向けのメニューだからね」
「え?」
「ん?知らなかった?これはね、昔、マスターと奥さんが食べて、仲良くなった事から、セットメニューにしたんだよ。好きな物を仲良く分けあって食べたから」
「知りません…、でした…」
『逢生、これにしよう、これに』。初めて連れて来てもらった時、メニューを見る暇もなく悠人に勧められた。結果、美味しくて大満足だった。あれは、悠人…そういうメニューだって、知ってたのかな。
コトッとコップを置く音がした。お水だ。「…いらっしゃいませ。楽しくお話しているところ、うかがってもいい?」と、声がして顔を向けた。あ、奥さん……私…。言付けたままのモノ……。でも、今は、……。
あ。優しく笑いかけてくれた。今は言わなくていいかな。私はチョコンと頭を下げた。
「オムバーグ2つ、いいよね、アイちゃん」
「あ、は、い、お願いします」
「いらっしゃいませ、逢生ちゃん……ご無沙汰でしたね…」
「…はい」
「また来てくれて嬉しいわ。デザートはどう?今日は丁度モンブランよ」
…この言い方はジンさんが居るからだ。
「それも。好きなんです、お願いします。あ、珈琲、ホットで。ね?いいよね?」
あ、ジンさん、返事、早。ジンさんもモンブラン好きなのかな…。奥さん、私に話し掛けてたのに、フフ、先に言われちゃた。
「はい、そうですね、お願いします」
「では、待っててね。直ぐ作るから」
おしぼりを置いてちょっと肩に触れ、カウンターに戻って行った。あ…奥さん。私……、あの事も覚えていてくれてたんだ。今、慌てて、何か言われないという事、態度にも出さない事は、あれから悠人、来てないって事だ……。悠人。
肩に置かれた手…、温かい手だった。
「さて、と…明日はどこに行く?」
悠人、…どこに居るんだろう。
「……え?」