さようなら、初めまして。
「食べるよ。いつならいい?」

あ。

「あ、えっと…あ」

閉店を知らせる音楽が流れ始めた。

「取り敢えず出ようか」

「あ、はい」


決して社交辞令的なつもりではなかったけど。曖昧ではなく、食べたいと、はっきり言われた。今は何も無い。材料さえ用意出来ればだけど…。

「明日以降なら、大丈夫ですけど…」

それでも…。

「じゃあ、明日」

「え、明日?!…ですか?」

確かに明日以降ならって返事したけど…そんなに直ぐ?ジンさんは何でも早くしたい方なのかな。

「ん、明日。何時に行ったらいい?」

…そんな…子供みたいな顔。何時って…。どこ、に?

「…うち?ですか?」

「ん。それ以外どこ?一番面倒臭くないと思うよ?
焼いて、箱なり入れてわざわざ持ち出すより、切って乗せればそれでOKだろ?」

そうですが…。私の焼くケーキ如きに…。明日も、また会うって事?

「何時に来たらいい?」

焼いてその後冷ましてデコレートしてっていったら…。帰って来てからだとどうしても遅くなってしまうな~。

「…当日、仕事終わりからってなると、ちょっと、…時間的に厳しいかなって、なります」

前日に焼くだけ焼いておくって事をすれば、大丈夫だけど…それが、今日ってなると。何を…どんな物を作るか、少し考えたいのもあるし。別にホールケーキじゃなくても、パウンドケーキでもいいんだけど。

「…そうか。そうだよな。時間、かかる物だもんな。あ、じゃあ、ケーキはアイちゃんの休みの日にって事で」

…う、ん。そうだ、その方がいいと思う。あ…それってだから、その時はうちに来るって事になるんだ。…。

「で、明日は、7時に」

「…え?」

明日?ケーキの日では無くなったら、別で?約束?

「"いつも"のところで」

え?ちょっと、え、待ってください。いつものって、グレーチングのところで?
明日も会うんですか?それに休みの日は休みの日でうちにですよね?…そんなに?


「じゃあ、おやすみ、風呂とご飯、ご馳走さま」

「あ、ジンさん…」 

切れたライトを取り替えてくれてジンさんは帰って行った。
……はあぁぁ。…どう、いう…。
携帯を手にベッドに転がった。

【アキちゃん…起きてる?】

【は~い、起きてるよ~】
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