さようなら、初めまして。
「…まあ…じゃあ、まだ新しかった靴が駄目になっちゃったの?」

靴下を脱ぎ、濡らしてくれたタオルを受け取り足を拭いた。

「はい、見事に」

拭き終わるのを傍で待ってくれていた。ごめんなさい、有り難うございますとタオルを渡した。

「これ、久し振りに……まあまあのお気に入りだったんです」

玄関に置かせてもらった無惨なパンプスに目を向けた。
お邪魔して丸い卓袱台の前に正座した。直ぐ横に段ボール箱があった。

「逢生ちゃんは拘りが強いようですからね。まあまあも、中々に無いものね。それは残念だったわね。これ、私が預かるわ」

「え?」

どういう事かな?

「捨てちゃうんでしょ?」

迷いはある…思い出があるから。でも……そうする事がいいのかもと思ってる。勿体ないけどそのつもりだ。

「あ、はい、残念ですけど。直すと元より高くなりそうだし」

大家さんはうんうんと頷いた。

「捨てるまで日があるでしょ?それまで目にすると悔しいでしょ?」

「え?あ、フフ。百子さん面白い。はい、そうですね、悔しいです」

「だから、私が預かっておいて、ちゃんとしてあげる」

「え、…でも」

「ゴミ出しのついでだもの。手間では無いわ。ね、預からせて頂戴」

「あー、私は、百子さんが嫌でないなら」

「ちっとも。邪魔な割に逢生ちゃんは、ゴミ出し忘れちゃうでしょ?あ、忘れた。また忘れたって。出せる回数の少ないゴミはもっと忘れちゃう。そんな事してたら年を越えてしまうかもですからね」

「あー、ハハハ。否定はできませんね。その可能性、大です」

生ごみならともかく、この手の物は出せる日が少ないから…。

「では私が預かって正解」

「…はい。そうですね。フフ、ではお願いします」

「はいはい…。お部屋はまだ元気かしら?傷んだところがあったら言って頂戴ね。自分で直しちゃ駄目よ?気になるところは好きに直してもいいけど、傷んだ時は代金はこっち持ちよ?ちゃんと言ってね」

「はい、大丈夫です。まだまだ“元気”ですよ、お部屋。田舎に居るみたいで凄く私的には快適です。建物を見ると、毎日、帰って来た、って、思えるんです。縁台に腰掛けて庭を眺めるのもホッとするんです。百子さんも大好きです」

「あらあら、嬉しいこと。ホッホッホ。私がいつも居るけど、あまり不用心になっちゃ駄目よ?見ての通り、部屋も私も古いんだから、簡単に壊されちゃうし、ホホホ、怪しい人も、私、頑張っても追い掛けられないから。お洗濯は必ず裏に干すのよ?可愛いおパンツなんか特に見えないようにね。うっかりは駄目よ?」

フフ、フフフ。

「はい、鍵はちゃんとかけます。窓も、ちゃんと閉めます。洗濯物も気をつけてます」

「そう。若いお嬢さんなんだから、念を入れて気をつけないとね。お部屋に入る前は後ろを確認して、それから入るのよ?こうして笑っていられてる内はいいのよ?」

「はい。ちゃんとします」

百子さんからしたら、みんな若いお嬢さんかな。

「あら、嫌だ、逢生ちゃん。話し込んじゃって、お茶、すっかり忘れちゃったわね。ホッホッホッ」

「大丈夫です。あの、私そろそろ…、失礼しますね」

「そう?ごめんなさいね。じゃあ、…よっこい、しょ。これに…、それから、これかしら。和菓子、好きよね逢生ちゃんも。これは日持ちするようだから。…はい、持って行ってちょうだい」

段ボール箱から取り出した菓子箱を渡された。

「…こんなに沢山。遠慮なく頂きます、有り難うございます。では」

「あ、そこのサンダル、履いて行っていいからね。いつでも大丈夫、玄関の前に戻して置いてくれたらいいからね」

「あー、そうだった…。フフフ。また裸足で帰るところでした。有り難うございます、借りて帰ります。直ぐ持って来ますね。おやすみなさい」

「はい、おやすみなさい。鍵、ちゃんとしてね?」

「はい」
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