さようなら、初めまして。
携帯を取り出した。

【携帯の番号のメモ、確認しました】

…これだけ。今はこれだけしか…。ここに来ている事は…。
特に返事はなかった。…帰ろう。7時…5分前だ。

「…ちゃん」

…え?

「アイちゃ~ん」

え?…空耳?…違う。確かに呼ばれた。違わないけど声が違った。

「やっぱり。アイちゃんだろ?」

え?あ、この人…。現れたのは、ここで以前しつこくされた人だった。どうしてまた…。

「そんな顔しなくていいじゃん。一人?だよね。やっぱ俺らって運命~?今日も実は一人なんでしょ?あの日みたいに。約束とかさ?待ってた人なんて居ないんでしょ?あの男、偶然、ま、助けてくれた人だろ?」

…また会うなんて…どんな運命…。呪いたくなる、はぁ。
怯んだら駄目だ。

「一人でも、待ち合わせてなくても、関係ないです。勝手に名前呼ばないでください」

「帰るところ?」

はぁ、人の話、聞いてないし…。部屋に向かって歩く訳にもいかない。

「ねぇ、今日は無視に徹するの?ア、イ、ちゃん」

人の話、無視してるのはそっちでしょ…。答える必要もない。だけど、どこに行こう…どうしよう…。
あっ。もたもたしてるから腕を掴まれた。

「まあいいよ。ちょっと行こう?」

引っ張って行こうとする腕を振り解いた。

「お」

「行きません!一人でどうぞ」

…誰か。こんな時でも人は誰も助けてくれない。他人の揉め事に関わりたくない、事情のよく解らないモノに立ち入って来ない。…当たり前だ。関わってどんな災難に遭わされるか解らないもの…。そう思ったら…ジンさんはなんて…親切な人だったんだろう。
気がつけば、ジワッと涙が滲んでいた。

「…おい…ぁ、どうした…。泣いてんのか…。おい。チッ。…面どくせーなー。俺、悪い人になっちゃうでしょ。でしょ?アイちゃんてば、ねえ」

「何が…面倒臭いって?…はぁ、…はぁぁ」
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