さようなら、初めまして。
「今日も貰ってくれますか?」

「オムライス?」

「はい」

「勿論だ。さ~て、頂くとするか」

「…はい」

ジンさん…今日は前よりもっと明るい…。
湯気の上がるお皿、オムライスにスプーンを差し込んだ。

…何で私があそこに来たのか…それってどう思わせてしまったのか。携帯の番号教えてくれたから来てたって…。さっき、清算かって言われた。ずっと待ち合わせの場所に来もしなかったのに、急に来たから…。
何か、期待させて、そしてがっかりさせてしまったのかも。

「あの、私…最後になった約束がここだったんです。…ちょっとケンカっていうか。ケンカではないけど、つまらない事で…機嫌を悪くして。だから、次、悠人に会った時、自分からちゃんと謝らなくちゃって思ってて。それで、約束は約束だったから、ここに来て。
ここに来れば、…自然に仲良く分けあって食べて…そして、素直に、ごめんねって、言えると思ってたんです。…でも、約束の時間になっても来なくて。
もしかしたら、ずっと機嫌が悪いままで…会いたくないって思われたのかもって、最初は思いました。そんな時もあるかもって。だから来ないんだって。でも、そんな子供みたいな事はしないって。例え、その時は来なくても…後でうちに来てくれるとか。でも、それも無くてそれっきりで…。心配ばっかりして、それでも、連絡を取る術が無くて…。悠人はそんな人じゃない、すっぽかすような人じゃないと思ったから。そんな、謝れないままでもあったから、…後味っていうか、…悪いんです。その場で謝っておけば良かった…。
閉店時間まで待ちました、でも来なかった…」

「…話。その話…。俺にする?」

「え?」

「俺…フラれたはずじゃ」

「あ…」

「だとしたら、もう俺に聞かせなくてもよくない話じゃない?」

…。

「無意識?それとも、この話をするのは…俺にして、その先、期待できる事はあるの?」

「あ…ごめんなさい…」

そう…だよね。

「ごめんなさいって、何?」

「ぁ…深く考えてなくて…ごめんなさい。…一緒に」

「ん?」

「ちゃんと一緒に食べられるんだって思ったから、…それを思ってしまったら、…食べられなかった事、…悠人の事、思い出して…また話してました。ごめんなさい」

「はぁ、ごめん…、俺こそごめん。せっかく誘って食べてるのに、ごめん。
…その…続きも、色々と、俺に話す気、ある?」

「え?」

「前に、話をしようって誘った。…俺の部屋に行かないかって。…もし、話す気があるなら、ここではなく、俺の部屋に…行かないか…と思って」

「…あ」

「いや…よく知らない男の…部屋だ。無理だよな、うん、無理だ、それに、俺はもう断られてるんだった。あそこで会ったから勘違いを押しつけようとしてた」

会ったのは偶然じゃない。…ジンさんにしてみたら偶然だったかも知れないけど、私は会うために来た。

「私、あそこには、…通りかかったんじゃないです。
来たんです、あそこに。ジンさんが居るかも知れないって…、自惚れて…」
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