さようなら、初めまして。
一晩明けてもジンさんからは何も来てなかった。
番号を教えてもらって、一文字書き間違えたとかはなかったのだろうか。例えば、667のはずが677だったとか。そんな初歩的なミス…しないよね。随分と自分に都合のいい解釈だ。それに、一度、メモを受け取った時、送ってる。それは届いてるんだし。
くだらない質問ばかり…した。返さなくていいから返さないんだ。…でも、一応。

【教えてもらった番号に間違いはなかったですよね?】

て、送っても、間違いなら本人には伝わらない。ぜ~んぶ、無い事だ。番号に間違いはない、これは自分への慰めだ。…はぁぁ。………ぁ、待って…催促だって、…思わせたかも。


こんな事はあるのだろうかと目を疑った。
…悠人だ。悠人が居た。会えないだろうかと思ってた願い、やっと通じた。見間違いなんかじゃない。私が悠人を間違える事なんてない。自信がある。
人混みの中、掻き分けるようにして追い掛けた。

「悠人!待って…。悠、人!」

雑踏の中、人がどんなに居ようと聞こえてないはずはないと思った。でも、悠人の歩みは速くて背中はドンドン離れて行った。
どうして…悠人。私、逢生だよ?長く会ってなかったから、私の声、忘れちゃったの?
あ。

「悠人ー!」

その声で、横断歩道の手前で悠人は止まった。私の声にではなかった。その弾んだ声の持ち主、そこには女の子が居た。女の子といっても幼い少女ではない。見た感じ二十歳前後くらいの女性だ。女の子という言い方になったのは私より明らかに若かったからだ。
女の子は飛びつくように悠人の腕を取り、嬉しそうに顔を緩め指を絡めて繋いだ。
…悠人。…悠人だよね?違うの?…。誰、なの?

「悠、人…」

悠人の背中は目の前だ。こんな呟きだって聞こえてないはずはなかった。だって、周りの人の沢山の目が私を見ていた。
肩で息をしながら、きっと酷い顔つきで私は立っていたから。嬉しそうにしている女の子とはまるで正反対、目の前の光景を見つめる姿、異様な気配は感じるはずなんだ。
まるでスローモーションだ、悠人の背中が捩れた。捻った顔がこっちを見た。

「……逢、生。………逢生、なのか?」

ゆっくり振り向いた悠人が呟くように言った。驚いて、そして戸惑っていた。

「…逢生」

「悠、人…」

間違いじゃなかった。悠人だ。悠人が居た。人目も憚らず私は泣いていた。
良かった。悠人、生きてたんだ…。

「…悠人、この人…誰?」
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