さようなら、初めまして。
「…沢山聞いてくれたのに、聞き忘れている事ない?」

「え?」

聞き忘れている事があったら居なくならないの?…?。

「ん。メールだよ。先ずは…実はね…バイトはね、バイトと言ってもバイトじゃなかったんだ。役職を隠して現場で仕事をしてみて、現場の人間の気持ちを知るため、してたんだ。時間がなくなったのは、我が儘を言ってしていた期間が終わって、元の勤務に戻るから。後は、年齢だな。年は32だ」

あ、一体、ジンさん…何者?

「…ジンさん…何ですか?」

「ん?あ、ハハ。それもあったね」

「変な聞き方をしましたが…男の人で、人間で、俺は俺だ、ではなくてです」

「フ。ハハハ。面白いなぁ。本当に…君は…。そこはやっぱり男だよ、男は男でも、君を好きな男だ。何って、その部分に答えるなら、ふざけてる訳じゃないけど。
真面目に答えるなら…会社の代表だ。今からそうなる予定なんだ」

「え…社長さん、ですか?」

あ、代表だといっても色々肩書はあるのかも…。世襲とかで、継ぐ感じなんだろうか。

「そうとも言うかな。まあ、まだまだ半人前のだが」

頭を掻いた。
…社長さん、なんだ…。だから、色々勉強のために現場を見てた…。

「あ、どうして…私があそこに居るって…」

「解ったかって?」

頷いた。あ。涙を拭かれた。

「悠人君のことを知らせて来たからだ。あの店が、昔、最初で…最後になった店だったんだろ?そう、君から聞いていた。…あんなメールを受け取ったら…。だから居ると思った」

本当の意味で最後になった。…あ。強く抱き直された。

「はぁ…私は一神誠だ。これは誰かのモノだけど、悠人君のモノではなかった。悠人君は生きていた。私は私だ」

…そうだ。手を胸に持って行かされた。ドクドク力強く拍動している…この心臓の事…。思い込んで疑い続けた。ジンさんの中に無理に悠人を求めた…。

「いつ悠人君と会えなかったのか、その日を聞けば良かったというのもあるけど。それすら聞かずに…。私の手術日と同じだったのか。…その日に亡くなってるとは限らないって思えば、会う日が手術の日よりも後だったら、この心臓は悠人君のモノではないと解っても、私ではない誰かにって場合もあった。だから結局はっきりは出来なかったんだけど。
良くない言い方に聞こえるかも知れないが、悠人君が生きていてくれて良かった。…涙は……悠人君とは、終わったんだね?」

「…はい」

…終わった。…終わってしまった。悠人の思い人はもう私ではない。もう…、ずっと前から私ではなくなっていた。だから終わりだ。

「どういうつもりでメールを?あ、さっきのではなく、前の。送ってくれた事をそのまま、興味を持ってくれたと思っていいんだよね?」

「…はい」

あれは、あの時は…理屈は確かにそうだ。

「…無理をする必要はない」

え…。

「終わったと言った。今…まだ…、まだまだ辛いのは解ってるから。…会った、元気だった。しかし、好き同士のはずが、元には戻れなかった。生きていたのに…彼は長い間、君に会わなかったんだ。理由があるに違いない」

「…ぅ。…はい…」

「…はぁぁ。待つから。今までのように会おう。それはいいね?もう、断る理由はないだろ?私は私だ」

「は、い」

「あ、でも、全くこっちに来なくなる事もないがそれは偶にだ。だから中々、時間が取れなくなる。申し訳ない」

「いいんです。あの…」

「ん?」

「あの…女性は誰ですか?」

……ジンさん、そういえば、仕事の関係した話になると、俺って言わなくなる。私って言うんだ。

「女性?んー?さて…いつの、誰の事だろう」

「…そんなに…解らない程、いらっしゃるんですか?」

「表現が具体的じゃないから解らないなぁ」

…。

「フ。ハハ。ごめん、笑ったりして、ごめん…つい」

つい?ついって何?

「ぁ…怒らないでくれ…ごめんごめん。嬉しくてだ」

嬉しくて?誰の事か解らないってのが、そんなに嬉しいの?

「…はぁ。ごめん。嬉しいんだ。やっと、その部分、聞いてくれたと思ってね。それに…少し妬いてくれた、んだよね?勘違いでなければ。
だから嬉しくて、つい、だ。他の何でもない事は聞いてくれても、そこは気にならないって思われたら寂しいからね。…一番大事な事だ。
あー、一緒に居るところを見たと言うなら、そんな女性は一人だけ。君が見たという彼女は秘書だよ。未熟な私をサポートしてくれる優秀な秘書。心配するような関係もない。仕事上の関係だけだ」

秘、書…だったんだ…。秘書さんて、どうしてあんな…どこの秘書さんもイメージ通りのタイプなんだろう。聡明そうで綺麗で…スタイルも良くてなんて、そういうモノなのかな。

「信じる?安心した?」

あ…。んー。

「どう?安心した?」

「…安心しました」

「…はぁぁ、…逢生。…嬉しいよ」

ジンさん。

「よし。帰ろうかな、部屋に」

「…はい」
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