死にたがりティーンエイジを忘れない


卒業式はさすがにサボれなかった。

練習とか準備とか、かったるいことに時間を使ってまで、式典なんてやる意味があるんだろうか。


当日、仕事が忙しいはずの母が卒業式を見に来た。

卒業生も親も泣いている人がけっこういたけれど、わたしにしてみれば、殻の向こうの出来事だった。


卒業生の名前が呼ばれて、返事をしなければならなかった。

智絵の名前が呼ばれたとき、応える声はなかった。

そんなふうに空白の時間を置いて次の名前が呼ばれるシーンは、しょっちゅうだった。

それでも平然と、卒業式は進行した。


体育館での式典の後、クラス別のホームルームがあった。

感動的な時間が演出されて、息苦しくて、逃げ出したかった。


一人ひとりが前に出て、クラスメイトや親への感謝の言葉を述べる。

ありふれた言葉が続いて、拍手をして、泣き出す人がいて。

わたしもあっち側だったら楽なのになと思いながら、時計の針がさっさと進んでくれることを願って。


突然、ちっともありふれていない言葉を発したのは、菅野だった。


「かあちゃん、今までありがとう! これからもよろしく! 甲子園に連れていきます!」


クラスが沸いた。

菅野は嬉しそうで、菅野のおかあさんらしき人はしきりに涙を拭っていた。


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