死にたがりティーンエイジを忘れない


ホームルームの後、母が涙ぐんでわたしに告げた言葉が、わたしの琴野中での学校生活のすべてを表していたと思う。


「ちゃんと生きててくれて、卒業式にも出てくれて、ありがとう」


その言葉を聞いた瞬間、わたしはハッキリと理解した。

わたし、死にたがりなんだな、と。


帰りに母は職員室にあいさつに行った。

わたしは付いていかずに、先に帰ることにした。


にぎやかな校舎を抜けて、靴を履き替える。

写真を撮ったり、友達や後輩に囲まれたり、寄せ書きを書いたり、そんな人たちから顔を背けて、一人で。


足音が追い掛けてきて、同時に名前を呼ばれて、わたしは立ち止まった。

菅野が真っ赤な顔でわたしの前に立った。


「最後に、握手してください!」


何で握手なんだろうって思った。

でも、胸の奥に押し込めた感情が、久しぶりにざわざわと、ぬくもりを帯びて動くのがわかった。


菅野はまだわたしより背が低くて、声変わりも完全じゃなくて、中一でも通用するくらいの容姿だ。

けれど、差し出された右手は、ゴツゴツした形だった。

男っぽい手だった。


わたしは菅野の右手を握った。

力強く握り返してくる手は温かった。

野球で鍛えられて、皮がザラザラに厚い。


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