死にたがりティーンエイジを忘れない


「蒼さん、手、冷たいね」


笑顔と正面から向き合ったのは、たぶん初めてだった。

菅野の奥二重で切れ長な目の形が意外にきれいなことを、不意に知った。


菅野の手が離れていく。


「ありがとうございました!」


菅野は頭を下げて、走っていった。

菅野と会ったのはそれが最後だった。


卒業式のその日を最後に会わなくなった人は多い。

その全部を把握することは、わたしにはもうできない。

卒業アルバムも買わなかったから、同じ学年に所属していた人の名前も顔もまったくわからない。


卒業アルバムは、出来上がったときに担任が見せてくれた。

初めのほうに掲載された集合写真の時点で、もうつらかった。

微笑むことのできない智絵の顔写真が、クラスの集合写真の隅に浮かんでいた。


もういい。

もう終わった。

やっと終わったんだ。


終わった、終わったと繰り返しながら、わたしは、二度と足を向けることのない琴野中からの帰り道を歩いた。

家に帰り着いて制服を脱ぎ捨てたとき、わけのわからない涙があふれた。


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