死にたがりティーンエイジを忘れない
ひとみは身を乗り出して声をひそめた。
「あたしね、最近ずっと思ってることがあって。普通じゃなくていいの。あたしは平田先生とデートしたい。蒼ちゃんともデートしたい」
「え?」
「あたしはどっちもほしくて、どっちも普通じゃないでしょ。平田先生は四十歳を超えてて、結婚して子どももいるのに、あたしはそういうとこが好きで。蒼ちゃんが男の子みたいな格好してくれて、あたしの隣を歩いてくれたらすごく嬉しくて」
その言葉で、わたしは完璧に理解した。
ひとみに対していだいていた、何とも言えないモヤモヤの正体。
わたしに対して直接向けられる感情じゃなかったんだ。
だから、イライラじゃなくて、モヤモヤした。
違うでしょ。
わたしじゃないんでしょ。
ひとみの本命は、いちばんほしいのは、わたしじゃなくて平田先生。
でも、平田先生は絶対に手に入らない。
わたしはその代わりだ。
普通じゃない恋をするための代役。
手近にいて便利だし、本物の男子じゃなくて肉体的に安全だから、わたしが選ばれた。
そんなふうに言ってしまえばよかったのか。
本音の言葉を叩き付けて、ひとみを拒めばよかったのか。
わたしは言えなかった。
ひとみがわたしの手を握るのも拒めなかった。
「蒼ちゃんの手、大きいよね。指も長い。すごくきれいな手。王子さま的な手だよね。好き」