死にたがりティーンエイジを忘れない


ほんのちょっと歌っただけで、わたしはやめた。


「喉が痛い……」


声を出さない日が続いているせいだ。

高い声も低い声も出なかった。

声が喉を通っていくときにこすれる感じや、キュッと喉をすぼめるときに力を入れる感じ。

たったそれだけの当たり前の感触が、痛くて耐えられなかった。


信じられない。

学校に行けないだけじゃなくて、唄を歌うことさえできなくなっているなんて。


部屋の隅にギターがある。

ハードケースに入ったまま、ふたを開けてもいないギター。

中学に上がるときに、叔父さんがおさがりでくれた上等のアコースティックギターだ。


去年は頑張って練習していた。

簡単な弾き語りなら、どうにかできるようになった。

練習を一日サボると、取り戻すのに三日かかるという。

だから、レベルを落としたくなくて、毎日ちょっとでもいいからギターにさわるようにしていた。


なのに。

頑張っていたのに。

引っ越しのバタバタで練習ができなくて、それっきりだ。

もう全然、指が動かなくなっているんじゃないか。

ギターに触れて確かめるのが怖い。


そして思い出した。


わたし、こっちに来てから小説も書いていない。


空想のストーリーを思い描くには、大きなエネルギーが必要だ。

そんなエネルギー、今はどこにもない。


どうにか食べて、眠れるときにうなされながら眠って、成績という免罪符を維持するために勉強する。

それだけの毎日。


自分が生きているのかどうか、実感がなかった。


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