死にたがりティーンエイジを忘れない
八月に入ったある日のことだ。
ショッピングモールの本屋で新刊の文庫を買って、フードコートでそれを読み始めた、そのときだった。
「あ、あの……蒼ちゃん、だよね? 琴野中の、二年の……」
遠慮がちな女の子の声に呼ばれた。
琴野中二年という言葉に、わたしは自分の顔がこわばるのがわかった。
振り返りながら、彼女のことをにらんでしまったと思う。
「誰? 何か用?」
長い髪をみつあみにした女の子が、そこに立っていた。
琴野中の野暮ったいセーラー服で、スケッチブックが入っているらしい大きなバッグを肩に引っかけている。
青白いくらいに色白な顔には、化粧をしていない。
とてもやせた女の子だった。
「あたし、あの、同じクラスなんだけど……智絵《ちえ》っていって、美術部で、遠い席にしかなったことないから、しゃべったことないよね。なのに、いきなり声かけちゃって、その……」
智絵は、か細い声をつむぎながら、スケッチブックのバッグの肩ひもをいじっている。
わたしをチラチラ見るけれど、うまく目を合わせられないらしい。
その瞬間、どうしてだろう、わたしは安心感を覚えた。
「座れば? わたし、一人だし」
気付いたら、智絵にそうすすめていた。
智絵は、ビックリしたように目をパチパチさせた。
カールしたまつげが濃くて長いから、まばたきが目立つ。
「じゃあ、えっと……お邪魔します」