死にたがりティーンエイジを忘れない
「菅野、蒼さんのファンなんだって。菅野だけじゃないな。隠れファン、多いよ。蒼さんはこういう話を嫌ってそうだけど、こういう話をしたがってる人はけっこういる」
何が言いたいんだろう?
上田の柔らかい声は、イヤでも耳に流れ込んでくる。
聞きたくもない話でも、聞かされてしまう。
「興味ないの」
突っぱねても、上田は相変わらず微笑んでいるらしい。
「蒼さんも放送委員やらない? 発表のときの声とか、国語や英語で音読する声とか、すごくキレイだし、なまりもないし、いいなあって思う。
もしかして、発声のレッスンとか受けたことある?」
「ない。受けたかったけど、住んでた場所、いなかだったし」
「木場山だっけ? やっぱり、蒼さんは自分でも、自分の声を特別に感じてるんだ? 意識しなきゃできないようなキレイな読み方、するもんなあ。
アナウンサーとかラジオDJとか、目指してる?」
「歌ってた。趣味で。それだけ」
「えっ、そうなんだ。楽器もできる?」
わたしは、かぶりを振った。
「もう忘れた」
おしゃべりをするつもりなんてない。
この喉はもう使い物にならない。
ちょっとしゃべるだけで疲れてしまう。
わたしは、上田が言葉を重ねないうちに、サッとその場を離れた。
智絵だったら、上田とのおしゃべりを楽しんだんだろうか。
それとも、縮こまって何も言えなくなったんだろうか。