死にたがりティーンエイジを忘れない


「菅野、蒼さんのファンなんだって。菅野だけじゃないな。隠れファン、多いよ。蒼さんはこういう話を嫌ってそうだけど、こういう話をしたがってる人はけっこういる」


何が言いたいんだろう?

上田の柔らかい声は、イヤでも耳に流れ込んでくる。

聞きたくもない話でも、聞かされてしまう。


「興味ないの」


突っぱねても、上田は相変わらず微笑んでいるらしい。


「蒼さんも放送委員やらない? 発表のときの声とか、国語や英語で音読する声とか、すごくキレイだし、なまりもないし、いいなあって思う。
もしかして、発声のレッスンとか受けたことある?」

「ない。受けたかったけど、住んでた場所、いなかだったし」

「木場山だっけ? やっぱり、蒼さんは自分でも、自分の声を特別に感じてるんだ? 意識しなきゃできないようなキレイな読み方、するもんなあ。
アナウンサーとかラジオDJとか、目指してる?」

「歌ってた。趣味で。それだけ」

「えっ、そうなんだ。楽器もできる?」


わたしは、かぶりを振った。


「もう忘れた」


おしゃべりをするつもりなんてない。

この喉はもう使い物にならない。

ちょっとしゃべるだけで疲れてしまう。


わたしは、上田が言葉を重ねないうちに、サッとその場を離れた。

智絵だったら、上田とのおしゃべりを楽しんだんだろうか。

それとも、縮こまって何も言えなくなったんだろうか。


< 62 / 340 >

この作品をシェア

pagetop