シンデレラは騙されない


「車で帰るぞ」

「え?」

私は地下鉄の駅へ向かって歩き出していた。

「渋滞で遅くならないですか?」

「遅くなりそうだったら、俺が山本さんに電話する。
もうちょっと、家にいてほしいって」

私は首を横に振った。

「私、電車で帰ります。
凛様は車で帰って下さい。
じゃ、また後で」

私はそう言って、歩道を走り出す。
この契約期間内は絶対に遅刻はしない。
星矢君の事を一番に考える。
ちゃんとしたお給料をもらっている身分としては、それは当たり前の事。
気まぐれや思いつきで星矢君の家庭教師をやっているわけじゃない。

凛様には悪いと思ったけれど、私は電車に飛び乗った。
この電車に乗れば10分前には斉木家に辿り着く。

思いのほか電車は空いていて、私は空いている席に腰を下ろした。

音楽を聴こうと思いバッグからスマホを取り出していると、隣の狭いスペースに誰かが無理やり座ってくる。



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