シンデレラは騙されない


私の髪にくちびるを押し当てて、初めて聞く素敵なラブソングを口ずさむ。

私は以前に聞いた山本さんの話を思い出した。
凛様の作る歌は素敵な歌ばかり…
私はずっと聞いていたいと思った。

「凛様、今度、凛様の歌が聞きたい…
ギターを弾いて、凛様の作った素敵な歌を」

凛様は私の髪を撫でながら、笑顔で頷いた。
小さな約束でもいい。
こんな何かがないと私達は離れる事ができないから。

凛様は私を抱き寄せたまま、小さくため息をつく。
今日私を手離す事を、自分自身にきつく言い聞かせてるように。

そして、その日の午後、凛様は日本を後にした。

私はそれから斉木家へ戻るまでの日々を、毎日泣いて過ごした。
星矢君の家庭教師を辞退する事も何度も考えたけれど、そんな私の色恋事情で弟の夢や自分の目的を見失いたくない。

根っからの生真面目な性格が、今の状況から逃げ出したい私を許してくれなかった。
こんな事になるのなら、何であの夜に凛様の誘いに乗ったの…?
そんな自問自答は、毎晩私を苦しめる。




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