シンデレラは騙されない
私ははいと小さな声で答えた。
とにかく、一分でも一秒でもこの空間から抜け出したい。
動揺する心を騙していられるのも時間の問題だから。
私は皆に会釈をして、その場を後にした。
清水さんの切ない視線を背中に浴びながら。
そして、部屋に入ってからも、その写真を開く気にはなれなかった。
真心のこもったこのプレゼントは、私の幸せを願う斉木家の人達の優しさに溢れている。
逆に悪意のあるプレゼントだった方がどれほど良かっただろう。
斉木家の皆が大嫌いになって、この家を飛び出す方が私の心は救われた。
凛様の言葉を信じないわけじゃない。
あの夜の凛様の言葉は一語一句覚えているし、毎晩、その言葉を思い出して眠りに入る。
私は途方に暮れた。
凛様の言葉を信じたい…
でも、それは、会長や綾さんを裏切る事になる。
考えれば考えるだけ放心状態になって、どうする事が最善なのかもう何も分からなかった。
夕食を済ませた星矢君のお勉強の時間が迫ってきた。
私は鏡の前で何度も笑顔を取り繕う。
星矢君ならこのレベルの笑顔で騙せるかな…
騙せるなんて、例えが悪いけど。