シンデレラは騙されない


綾さんの穏やかな口調と笑い声を聞いていると、綾さんは私の事を本当に大切に考えているとひしひしと伝わってくる。
それが、嬉しくてすごく辛かった。
身動きが取れないというのはきっとこういう事。
優柔不断とか意気地なしとか、今の私を揶揄する言葉で頭の中がいっぱいになる。

でも、綾さんには分かりましたと返事をした。
そういう安易な返事が自分を追い詰めていくとは、この時はあまり考えずに。

私が綾さんとの会話を終えたと同時に、専務が星矢君の部屋に入ってきた。
私は軽くお辞儀をして、専務にスマホを渡す。

「麻里ちゃん、ちょっと話さないか?」

私は泣きそうになった。
専務は知っている、私と凛様の関係を…
だから、本当は一番避けたかった。
何を言われるか、何を求めているか、手に取るように分かるから。

私は専務に促されて、星矢君の学習机の椅子に座る。
専務はベッドに腰掛けて、切なさに満ちた優しい眼差しで私を見て無理に微笑んだ。




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