シンデレラは騙されない
「実は、凛太朗君には、フィアンセみたいな人がいるんだ。
こういう事業をしている家に生まれてしまったら、相互関係とか事業拡大とかいう理由で、結婚相手が何となく決まってしまう。
僕だって、綾と結婚する事を知ったのは高校生の時だった。
祖父同志が友達だった関係で、男三人兄弟の三番目の僕は、このHAKASEグループの長女と結婚するって知った時は衝撃だったけどね」
私は黙って聞いていた。
「こういう家柄に生まれてしまったら、こういう婚姻は普通なんだ。
きっと、麻里ちゃんからしたらあり得ない事だと思うけど」
私は顔を上げる事ができない。
専務のどうにもしてあげれないんだっていう切ない瞳を見たら、涙が溢れ出てしまうから。
「麻里ちゃん…?
今、凛太朗君とどういうつき合いをしているのか、聞く事なんてしないよ。
でも、綾達の想いは分かってほしいんだ。
平塚君は本当にいい人だよ。
彼はいいところの出身じゃなくて、自分の力で今の地位までのし上がった人間。
彼も母子家庭で、奨学金で大学に入ったって言ってた。
だからこそ、麻里ちゃんの話を聞いて、何かが彼を惹きつけたんだと思う。
こんな事僕が言うと嫌味に聞こえるかもしれないけど、価値観って大事だと思うんだ。
平塚君とは友達になればいい。
綾達もそれだけを望んでる。
友達の先に何もなくていいんだ。
何でも相談できる頼りになる男友達が麻里ちゃんには必要なんだって、皆思ってるから」