シンデレラは騙されない
翌日、私はいつものように出勤した。
前の晩に泣き過ぎたせいで、目が腫れていたがそんな事言ってられない。
今日は一週間で一番忙しい金曜日で、それが私にとっては有り難かった。
何も考えずに仕事に没頭したかったから。
12時に後5分というところで、私に電話が入った。
外線ボタンが点滅しているのを見て、一瞬誰なのか考える。
でも、誰も思いつかずとりあえず電話に出た。
「もしもし…」
ひと息間をおいて、知らない男性の声が私の名前を聞いた。
「麻木麻里さん?」
「……はい」
私の直感はきっと当たっている。
この声の主はきっとあの人…
「急にごめんなさい。
僕は平塚と言います。
綾さんの友達の」
「あ、はい…
あ、初めまして」
どう反応すればいいのか分からない。
まだ、心の準備も何もできてないのに。
「あの、本当に突然でごめん。
実は、急にここのビルに用事が入って、今、下のロビーにいるんだ。
昨夜、綾から僕の話を麻里さんにした事は聞いてて、だから、急だとは思ったんだけど、麻里さんに会ってみたいって思って…
でも、ごめん、驚かせちゃったね」