シンデレラは騙されない
電話口で本当に困っているのが分かった。
私の頭に綾さんの顔が浮かんできて、平塚さんという人を邪険に扱う事をためらってしまう。
「今、下にいらっしゃるんですか…?」
「うん、受付の近くにいる」
せっかく下にいるのなら、私が会うのを断る理由はない。
「今日のお昼休憩は13時からなのでゆっくりはできないんですが、少しでいいのなら…」
「会いたい、待ってるよ」
凛様とは違う言葉の響きに何だか不意を突かれた気がした。
凛様の持って生まれた育ちの良さは、悪戯にきつい言葉を使っても何だかほんわりと柔らかい空気に包まれて悪意を感じない。
でも、平塚さんの言葉には、底知れぬ力強さを感じてしまう。
その強さが何なのかは分からないけれど。
私は一階のエントランス中央に立つ平塚さんをすぐに見つけた。
写真を見ていたせいで、お互い間違える事はなかった。
「麻里…さん?」
「……はい」