シンデレラは騙されない
その日の夜は眠れなかった。
悔しさやら寂しさやら、そして何より虚しさという敗北感に苛まれて。
でも、ここで負けるわけにはいかない。
俺が今何をするべきか、そんな事考えなくても分かっている。
麻里と結婚するためには、いや、麻里を幸せにするためには、母さんや綾、そしてHAKASEグループの重鎮達に俺という人間を認めてもらう事、そして皆に祝福される事、それが麻里の一番のこだわり。
もし一人でも悲しい顔をする人間がいれば、麻里は幸せじゃない。
ベッドから出て窓を開けると、生温い風が部屋の中へ入ってくる。
俺はそうするためにどんな手段を使ってもいいと思っているが、でも、きっと真っ当な事しかできないだろう。
麻里という生真面目で自分の事より人の事を優先する、ある意味厄介な心優しき人間を俺の妻として迎え入れるためには、真っ直ぐで純粋なやり方じゃないと麻里は俺の元へは絶対に来ない。
だからこそ、そのために準備と対策はちゃんと整えてきた。
そして、時間もかけたくない。
だけど、早急に出来る事ではないと分かっている。
俺は窓を閉め、その場に座り込んだ。
麻里が、悠馬さんなんかに、心を持っていかれない事を祈るだけだ。
女って弱っている時に優しくされれば、何となくそっちに行ってしまう生き物だって聞いた。
やっぱり、全てを急がなきゃ…
悠馬さんを敵にするにはリスクが大き過ぎる。