シンデレラは騙されない


そして、義兄さんと話してから一週間が経った。
急な帰国に対して、そのためにここのスタッフに迷惑をかけないよう、この一週間、俺はほとんど寝ないで仕事をこなしてきた。

このエリアで大規模な工場を稼働し始めて、一年が経とうとしている。
経営に関しては素人の俺でも、子供の頃から祖父や母親の経営に関してのノウハウは見てきて少しは頭に入っているつもりだ。

これが生まれながらの特権なのだろう。
今ではこの特権をフルに活用している。
全ては麻里のため…
こんな風に俺を変えた麻里は、やっぱり凄いと思う。

そして、明日、俺は帰国する。
早急且つ迅速に、麻里を取り戻すために…


「ただいま」

突然、現れた俺に、出迎えた山本さんと清水さんは目を丸くしている。

「り、凛様、タイから、帰っていらしたんですか…?」

山本さんはそう言うと、我慢できずに涙が瞳を覆いつくした。
俺はすぐに山本さんの気持ちを察した。
麻里は山本さんととても仲良しだったから。

“山本さんがね、私と凛様との事を分かってくれてて応援するって言ってくれた”

そうやって麻里が笑顔で話していた事を、山本さんの涙で思い出す。




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