シンデレラは騙されない


「麻里?
私の事ですか?」

きっと凛様からしたら、こいつ何言ってんだ?みたいな笑っちゃう反応だと思うけど、でも何だかそれくらいに麻里って呼ばれた事が嬉しかった。

サングラス越しに凛様の呆れて笑っている瞳が見える。

「っていうか、麻里って呼んでいいか?」

やっぱり凛様は完璧な俺様体質にはなれない。
育ちの良さがところどころで顔を出すから。
でも、そんな風にストレートに聞かれて、雇われの身の私はどう返事をしていいか分からなかった。

私は黙ったまま下を向く。

「ジャックの許可は取らなくてもいい?」

……最悪。
私はわざとらしく大きくため息をついた。
その話題は止めて下さいって分かってもらうために。

「イエスともノーとも言えない?」

凛様は続けざまに質問してくる。
私の閉ざされた心の奥底をつつくように。

「何か訳ありなのは分かってるけど、頑固だな…」

凛様は壁に預けていた体を真っ直ぐに立て直した。

「ほら、シュガースウィートコーンのドーナツ。
俺らは今から綾を空港まで送りに行くけど、昼ご飯なんて買ってきてないだろ?

めちゃくちゃ美味しいから、これを食べて機嫌直す事」




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