シンデレラは騙されない
そして、その木曜日、夕方のバイオリンのレッスンを済ませた星矢君と一緒に夕食を取っていると、星矢君が寂しそうに何か私に言いたそうな顔をしている。
「星矢君、どうしたの?」
私は星矢君の目を覗きこんでそう聞いてみた。
星矢君のためなら何でもしてあげたいみたいな、家庭教師を超えた献身愛がみなぎる自分がここにいる。
「麻里先生、凛太朗の電話番号とか知ってる?」
私は星矢君の寂しさの原因がこれですぐに分かった。
だって、私だって、そんな気持ちになっていたから。
ドーナツの感想をまだ報告できていない。
「星矢君、ごめんね…
先生、凛様の連絡先とか何も知らないの」
すると、星矢君が急に席を立ち、私の手を引っ張ってどこかへ連れて行こうとする。
「星矢君、どこへ行くの?」
星矢君に連れられて来た場所は、リビングに置いている電話の棚の前だった。
「この棚の上に、おばあちゃまが作った電話帳みたいなのが置いてあるんだ。
そこに凛太朗の携帯の番号があるから、先生、あれ取って下さい」