シンデレラは騙されない

凛様はしばらく頭を抱えて座っていた。
私はそれをただ見てるしかない。
何か言葉を発せば余計な事を言ってしまいそうな、そんな切なくて息苦しい空気が二人の間に漂っているから。

やっと腰を上げた凛様は、まだ少しふらついていた。
私が慌てて駆け寄ると、凛様は嬉しそうに私に抱きついてくる。

「ちょっとだけ、いい?」

「…あ、はい」

私よりはるかに身長が高いはずなのに、凛様は子猫のよう…
私は凛様の背中を優しくさする。

「凛様…
星矢君が、凛様に会いたくて毎日泣いてます」

「…うん」

「家に…
家に、毎日、帰ってくる事はできませんか…?」

凛様は、更に力強く私を抱きしめる。

「それは、誰のために?」

「…え?」

私は鈍感なわけじゃない。
でも、自意識過剰でもない。
今の凛様は正気じゃないから、今の凛様の言葉に何の意味はない。
真夜中の何かが起こりそうなこの雰囲気に、ただ惑わされているだけ…

凛様はやっと体を起こしてくれた。
私が星矢君にするように、私のほっぺをぷにゅぷにゅして。

「星矢が嬉しそうだったから…」






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