シンデレラは騙されない
木曜日のこの事件は、私と凛様の間にささやかなぎこちなさを残した。
いや、二人の間と思っているのは私だけで、そもそも凛様はあの晩の出来事さえ記憶にないのかもしれない。
そんな事をうだうだ考えながら、私は眠れない夜を過ごした。
金曜日の朝は、私はいつもより早く会社へ出勤する事にしている。
小売店などから一週間分の在庫管理のデータが送られてくるため、金曜日に一斉にその様々な商品の在庫を数えて、売上に対応する商品原価を表す表を作成する作業があるからだ。
今までの生活なら残業という形で暗くなるまで仕事ができたけれど、星矢君が待っている今の生活ではそういうわけにはいかない。
夜に仕事ができないなら、朝するしかなかった。
その旨はお手伝いの清水さんと山本会長には伝えている。
だから、金曜日の朝だけは、斉木家の食卓には顔を出さずに、真っ直ぐに会社へ向かった。
凛様への独りよがりの想いも、仕事の忙しさで紛らわしたい。
私は清々しい朝の陽射しを浴びながら、駅までの道を颯爽と走った。