シンデレラは騙されない


会社では、いつもの何も変わらない日常が流れて行く。
自分の心に小さな変化があったとしても、それは会社での私には何も必要ない事。

黙々と淡々と仕事をこなす事が、平常心につながる。

退社時間が近づく頃になると、私の心の変化は淡い思い出として記憶の隅に追いやった。
半ば強制的にだけど…

「麻里ちゃん、麻里ちゃんのロッカーでずっとスマホが鳴ってたけど、スマホ、ここに持って来てないの?」

一年先輩で隣のデスクに座る藍子さんがそう教えてくれた。

「あ、持って来てない…
忘れてます…」

藍子さんに早く取って来なと背中を押されて、私は久しぶりにデスクから立ち上がる。
お昼ご飯を食べてから、ずっと座りっぱなしだったから。

私は背伸びをしながら廊下を歩いていると、廊下の突き当たりにある窓の辺りでスマホを覗きこんでいる男の人に目を奪われた。

濃紺のスーツに身を包んだその男の人…
どこかで見た事があるツンツンボサボサの…





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